フィルターの性能と使い方次第で、スペアナの狭帯域性能が概ね決まってしまいます。どんなに優れた高価なフィルターを買ったとしても、使い方を知らなければ宝の持ち腐れです。ぜひここで使い方を修得してください。
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セラミック・フィルターの写真 (左)455kHz用,(右)10.7MHz用 |
セラミック・フィルターの動作原理を知る
セラミック・フィルタは、図1のように高圧電率のセラミックに入出力電極およびGND電極を付けたものです。入力電極に電気信号を入力すると、圧電効果によってセラミックが機械的に共振し、逆に出力電極からは、圧電効果によって振動が電気信号に変換されて出てきます。
セラミックの圧電率や機械的寸法、電極の形状などを変えることにより、共振周波数やQ(共振の鋭さを表す指数)を自由に設定することができるので、バンドパス・フィルターとして利用することができます。
ジルコン・チタン酸鉛系の高圧電率セラミックが開発されたことによって、振動子としての特性や安定度が大幅に改善されてきています。今では、LCフィルタに代わって、数100kHzから数10MHz以下の周波数帯では、広く用いられています。
特に、AMやFMラジオのIF回路のフィルターには、ほとんどセラミック・フィルターが使われています。
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図1.セラッミック・フィルターの原理構造図 |
セラミックフィルターの種類
ここでは、中心周波数455kHzのセラミック・フィルターを用います。減衰量や帯域幅により、セラミック・フィルターの種類は多様です。FM通信用,AM放送用,AM通信用というように帯域幅が狭くなっています。
品名 | 6dB帯域幅 (kHz)以上 |
減衰帯域幅 (kHz)以下 |
保証減衰量 (dB)以上 |
挿入損失 (dB)以下 |
入出力整合 インピーダンス (kΩ) |
||
CFU | VFW | CFU | CFW | ||||
CFU455B2 | CFW455B | ±15 | ±30 | 27 | 35 | 4 | 1.5 |
CFU455C2 | CFW455C | ±12.5 | ±24 | 27 | 35 | 4 | 1.5 |
CFU455D2 | CFW455D | ±10 | ±20 | 27 | 35 | 6 | 1.5 |
CFU455E2 | CFW455E | ±7.5 | ±15 | 27 | 35 | 6 | 1.5 |
CFU455F2 | CFW455F | ±6 | ±12.5 | 27 | 35 | 6 | 2 |
CFU455G2 | CFW455G | ±4.5 | ±10 | 25 | 35 | 6 | 2 |
CFU455H2 | CFW455H | ±3 | ±9 | 25 | 35 | 6 | 2 |
CFU455I2 | CFW455I | ±2 | ±7.5 | 25 | 35 | 6 | 2 |
CFU455HT | CFW455HT | ±3 | ±9 | 35 | 60 | 6 | 2 |
CFU455IT | CFW455IT | ±2 | ±7.5 | 35 | 60 | 6 | 2 |
CFV455E | ±8 | ±16 | 50 | 6 | 1.5 | ||
CFV455E10 | ±7 | ±12.5 | 50 | 6 | 1.5 |
品名 | 3dB帯域幅 (kHz) |
20dB帯域幅 (kHz)以下 |
挿入損失 (dB)以下 |
スプリアス減衰量 (9〜12MHz) (dB)以上 |
入出力整合 インピーダンス (Ω) |
SFE10.7MA5 | 280±50 | 650 | 6 | 30 | 330 |
SFE10.7MS2 | 230±50 | 600 | 6 | 40 | 330 |
SFE10.7MS3 | 180±40 | 520 | 7 | 40 | 330 |
SFE10.7MJ | 150±40 | 400 | 10 | 40 | 330 |
セラミック・フィルターのピン配置
代表的なセラミック・フィルターのピン配置について、図2に示します。セラミックフィルターは、図1の原理構造図で見るように、IN(入力端子),GND(接地端子),OUT(出力端子)があります。双方向性のため、INとOUTを入れ換えても使えるものもあります。
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図2.セラミック・フィルターのピン配置図 (左)455kHz用,(右)10.7MHz用 |
セラミック・フィルターの上手な使い方をマスターする
ここで、セラミック・フィルターの特性を十分に把握し、使い方のノウハウを修得してください。
(1)必ず同調回路と組み合わせて使うべし!
図3に、セラミック・フィルター単体のときと、同調回路と組み合わせたときの出力特性の違いを示します。[A]がセラミック・フィルター単体での特性です。出力特性には、副共振と呼ばれる、振幅特性のはね返り現象が発生します。
副共振点では、減衰量が小さくなるため、混信の原因となります。
そこで、[B]のように、LC同調回路を組み合わせることによって、はね返り現象を抑えることができます。同調回路の1次側では、セラミック・フィルタの共振周波数に合わせます。
(2)インピーダンスマッチングを取りましょう
なお、セラミック・フィルターを使用するときは、インピーダンスマッチングに注意します。ミス・マッチでは所定の特性を得ることはできません。表1では、455kHzのセラミック・フィルターの入出力インピーダンスは、1.5kΩ〜2kΩですので、図3のように入力に2kΩの抵抗を直列に、出力には並列に挿入します。
また、LC同調回路と組み合わせた場合には、入力はセラミック・フィルタ側からみたインピーダンスが、2kΩ程度になるように、同調回路の出力インピーダンスを調整します。
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図3.セラミック・フィルター単体のときと、同調回路と組み合わせたときの出力特性の違い |
(3)実装上のアイソレーションをとるように心がけましょう
実装上の重要なノウハウになります。フィルター自体の減衰帯域での信号阻止能力、これを保証減衰量といいますが、中には80dB以上にも達するものでも容易に入手できます。しかし、実装回路パターンでこれを十分に上回るだけのアイソレーションが確保されていなければ、せっかくのフィルターの実力を発揮させることはできません。
フィルター前の回路とフィルター後の回路は、空間距離を極力離すように配置してください。また図4のように、フィルタ前のIF増幅回路と後のIF増幅回路がある場合には、特に電源ラインが不要な信号ルートとなり得ます。従って、電源間には必ずデカップリング回路を入れてください。
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図4. フィルター実装上のアイソレーション |
電源のデカップリング回路として、図5に示すような部品が秋月電子通商などで、1個15円程度で売られていますので、それを利用すると良いでしょう。中央の円形部分がセラミックコンデンサーで、コイルとしては両端子にフェライト・ビーズがついています。その両端子を電源ラインに通し、真中の端子はグランドに接続して使います。電源ラインから乗ってくるノイズに対しても有効な部品です。ぜひ覚えておいてください。
このような部品がない場合でも、0.1μF程度のコンデンサと、フェライト・ビーズを組み合わせて構成することもできます。さらに、フェライト・ビーズも無いというのであれば、コイルの代わりに数十Ωの抵抗を使ってもデカップリング効果があります。
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図5. デカップリング回路用の部品 |
さて、アイソレーションが不十分な場合には不要な信号ルートの他に、IF出力段からのフィードバックによる影響が考えられます。IF段では100〜120dBもの高ゲインをもつことも珍しくありません。出力部からIFフィルター周辺の入力部に不要なフィードバックがあると、図6に示すようにフィルターの通過帯域にリップルが発生するのです。
すなわち、本来フィルター自体では、通過帯域特性は概ね平坦ですが、フィードバックが起こると帯域内で大小の波打が生じます。IF出力部の信号は、IFフィルターを通ったときに急激な位相回転を受けています。これが入力部にフィードバックされると、周波数のわずかな違いによって、正帰還となって山となったり、負帰還となって谷となったりします。アイソレーションが不十分な場合には、こういう現象も起こるということを覚えておいてください。
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図6. フィードバックの影響によるフィルターの通過帯域特性 |
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